【空き家の実態】横浜市の空き家は30年前から2倍以上に。腐朽や破損も6千件
――最近、「空き家が急増している」と耳にすることが増えました。横浜市の場合はいかがですか。
この30年間で、空き家戸数は一貫して増加傾向にあります。横浜市の場合、2018年の調査結果(総務省「2018(平成30)年 住宅・土地統計調査」)では、全住宅約183万6千戸のうち、人が住んでいない「空き家」は約17万8千戸で全体の9.7%。全国平均よりは低い割合ですが、戸数としては、30年前と比較すると2倍以上にもなります。
そのうち、特に問題となっているのが一戸建ての空き家です。中でも別荘や賃貸などになっていない「その他の住宅」は約2万戸あり、周辺の住環境に影響を及ぼすリスクをはらんでいます。腐朽や破損があるものも約6,400戸にのぼっています。
※その他の住宅・・・賃貸用や売却用等以外の住宅で、区分の判断が困難な住宅などをいう。
ちなみに、マンションなどの集合住宅の空き室は、樹木などの問題が比較的少ないため、今のところ一戸建てほどの大きな社会問題にはなっていないかと思います。
「空き家を相続したものの、住まない」が大半
――そもそも空き家が増えている理由は、どういったことが考えられるのでしょうか。
建物の老朽化と少子高齢化ということが原因にあると思います。他にも相続問題、流通・活用・管理のノウハウ不足など様々な要因が複合的に関係しています。
横浜市は全国的に見れば、都市部で比較的不動産の流通も活発ということもあり、他の都市に比べて、全住宅に占める空き家の割合は今のところ少ないですが、空き家の数は同じように増加していくと想定されます。
――空き家の所有者となる経緯として、どのようなケースが多いのでしょうか。
単身高齢者が増え、別居する親族が相続したものの、住まないというケースが多いと思います。
空き家の発生理由の半数以上が、相続によるものといったデータもあります。相続前に親族間でその家の活用について相談できていないと相続の時点で次の段階に進めることができず、そのまま空き家になってしまう。その他、転勤などで空き家になっているなどといったこともあります。
【空き家の問題とは?】近隣からのクレーム。遠方などで気づかないケースも
――空き家を放置しておくと、どのような問題が起こるのでしょうか。具体的な事例を教えてください。
横浜市に寄せられた近隣住民からの相談・指摘のうち、多いものとしては「樹木が隣の家や道路のほうにまで生えてきてしまう」「建物の老朽化や腐朽」「害虫・害獣(ねずみ、等)」が挙げられます。
樹木やねずみの問題などは、遠方に住んでいる所有者の方は、それを目の当たりにすることがないため、あまり気になりません。しかし、近隣の方はずっとそこに住んでいて、日々その問題に直面するので、とても気になるものです。
また、火災や不審者の侵入、不法なごみ投棄といったリスクもあります。さらに、台風が通過するといろいろなものが壊れたり吹き飛ばされたりするなどして、通報件数も増加します。
空き家が原因で怪我を負わせてしまった場合、所有者の管理責任が問われてしまう
――空き家の所有者となることで、近隣の方とのトラブルになるリスクもあるということ。具体的に、どのようなリスクがあるでしょうか。また、所有者は空き家に対し、最低限どのようなことをするべきでしょうか。
例えば放置していた空き家の瓦が風で飛んで誰かが怪我をしてしまった場合、所有者の管理責任が問われる可能性はあると思います。空き家を放置しておくと、そういった他者に迷惑をかけるリスクは常にあると思っていただいたほうが良いです。何かが起きたときに、そこに自分はいなくても、無関係ではいられないです。
家を所有している方がそれぞれの理由で、その家には住んではいなくても、手放したくないということはあると思います。ただ、家の管理はしていただきたいです。
所有者が空き家に再度住むようになった場合も、日頃から管理しておいたほうが家の傷みも少ないですし、近隣住民との関係も良好に維持できると思います。家を相続する際にはその後の管理について家族と親族と事前に相談することが重要です。
横浜市が推進する、空き家対策や所有者への支援とは?
――空き家を所有している、もしくは今後所有する可能性がある方について、横浜市の取り組みを教えてください。
横浜市は2018年に「第2期横浜市空家等対策計画」を策定。「空家化の予防」「空家の流通・活用促進」「管理不全な空家の防止・解消」「空家の跡地活用」を “4本柱”として空き家対策に取り組んでいます。住まいが空き家になる前の居住中の状態から活用まで、相談窓口の開設をはじめとしたさまざまな対策を行っています。
「空家化の予防」については、「空家の総合案内窓口」を設置し、多岐にわたるお悩みに対応しています。また、空き家の管理・流通・活用を勧めるパンフレットやチラシを作成し、窓口での配布や、ホームページに掲出するなどの情報提供をおこなうほか、不動産や法務の専門家と連携した相談会を開いたりするなど、啓発活動として生前から相続のことを考えてもらうきっかけを作っています。
相談会の周知としては、区報、市のホームページ、回覧などを通じて行っていますので、ぜひご覧いただければと思います。
次に「空家の流通・活用促進」ですが、不動産として市場で流通されれば一番問題ないですよね。横浜市に住みたいという人は多いので、そういった意味では、一般的な市場流通は整っていると思います。
活用についての今後の展望は、住宅としての引き続き使われることの他、地域の交流スペースなど、住宅以外の用途での活用も考えられます。特にまちの魅力化や地域の活性化につなげるため、NPOや地域の方などの活動拠点として、空き家を転換していけるように、地域の方の活用アイデアを行政として空き家対策の中でも支援していきたいと思っています。
横浜市独自の補助制度として、地域の活動団体に空き家を貸し出す所有者への支援として、空き家の家財撤去や樹木剪定などに係る費用を最大20万円まで補助する「スタートアップ支援事業補助金」もあります。ぜひ活用していただきたいです。
空き家の管理不全により問題が起こった場合、行政が働きかけることも
「管理不全な空家の防止・解消」として、問題が起こった時の対応も行っています。(近隣住民からの)通報・相談があると、区役所の担当者が直接現場を見に行き、所有者に対して自主改善の働きかけを行っています。放置すると著しい悪影響を周辺へ及ぼす場合は、法律に基づいて行政指導し、更に悪化したときには行政代執行も可能です。横浜市では事例がありませんが、所有者に対して強制的な措置ができるというものです。
さらには「空家の跡地活用」として、空き家を取り壊した跡地への対応も考えています。跡地がそのまま市場で流通されれば良いですが、家が近接していて火災の危険が高い密集市街地などでは、防災広場として使うという可能性も考えられます。
空き家管理サービスの紹介も
――空き家をきちんと管理したいと思っても、体力的・金銭的に厳しいケースもあると聞きます。横浜市として、独自の取り組みがあれば教えてください。
所有者本人が管理を負担に感じる場合は、相談の際に賃貸や売却という方法もあることはお伝えします。国の施策で、相続した空き家を譲渡する場合の税制上の特例措置もあり、市場に流通させやすい状況ではあります。また、取り壊しについても、一部補助メニューがあります。
また、横浜市のシルバー人材センターをはじめ、民間企業やNPO法人の空き家管理のサービスもご紹介することがあります。
民間が行う空き家管理サービスにも期待
――東京ガスでは、地域のインフラ企業として、防災や街づくりの面からもこの領域でお客さまのお困りごとを解決するため、空き家管理サービスをスタートしました。民間が行う空き家管理ビジネスをどう思いますか。また、要望などがあれば教えてください。
公的なサービスでは足りず、民間のサービスが頼りになることも多くあります。東京ガスさんのようにお家に定期的に訪問される企業に、空き家の発見と管理の重要性についての啓発をしていただけるのはありがたいです。
空き家問題については、行政だけでなく民間事業者や専門団体等との多様な連携により実効性のある対策を実施していきたいと考えています。
おわりに
さまざまな理由で、突然実家が空き家になってしまうことは、誰にでもあり得ること。管理がおろそかになってしまうと様々なリスクの懸念があります。問題が起きる前に、相談窓口や制度、サービスをうまく活用し、適切に管理したいものですね。