【子どもの褒め方・叱り方の前に】一番大切なのは「自己肯定感・自尊感情」
子どもの褒め方・叱り方って、とても難しいですよね。私も日々悩んでいます。
褒めて育てましょう、という言葉を聞いたことのある方は多いでしょう。また、ときには厳しく叱って、子どもをしつけていくことも必要です。
でも、「褒める・叱る」の前に、子育てにおいて一番大切だと、私が考えていることがあります。それは、「自己肯定感・自尊感情」を育てることです。
「自己肯定感・自尊感情」とは?
東京都教育委員会では、平成20~25年の5ヵ年に渡って、「自尊感情や自己肯定感に関する研究」を行っていました。
東京都の定義によると、自尊感情とは、
「自分のできることできないことなどすべての要素を包括した意味での「自分」を他者とのかかわり合いを通してかけがえのない存在、価値ある存在としてとらえる気持ち」だそうです。ちょっと分かりにくいかもしれませんね。
簡単に言えば、子どもが、親や友達、先生などとの関わりの中で、
「自分には、できることもあるし、できないこともある。でも、何ができても、できなくても、自分には生きている価値がある。自分は自分として生きていていいんだ。かけがえのない存在なんだ。」
と、心から思っていられること。それが、自己肯定感・自尊感情の意味です。
「自信」とはどう違うの?
自己肯定感・自尊感情は、いわゆる「自信」と混同されることもありますが、ちょっと違います。
自信というと、「〇〇ができるから、僕・私はすごい」「競争で〇番になったから、僕・私はすごい」という、「『能力』に対する自信」が含まれます。
でも、自己肯定感・自尊感情は、上でも述べた通り、「何ができても、できなくても、自分は自分でいいんだ」という、「『存在』に対する自信」と言われています。
自己肯定感・自尊感情はどうして必要?
東京都のレポートによると、自己肯定感・自尊感情が高い子どもは、人間関係が良好、学習や課外活動に積極的、授業の理解度が高い・・・などの行動が見られるとあります。
逆に低いと、暴力をふるう、やる気がおきない、自分で判断できない、授業の理解度が低い・・・などの気になる行動が表れるそうです。
学校や勉強における一面以外にも、長い人生を生きていく上でも、自己肯定感・自尊感情はとても大切です。
「何ができても、できなくても、自分は自分でいいんだ」と思えていれば、できることを自分でやるのはもちろん、できないことがあったとき、前向きに努力したり、工夫したり、あるいは「人に頼る」こともできます。
人間、できないこともあるのは当たり前ですよね。だから、どうしても自分ではできないときに、人に頼って乗り越えられるのは、生きていく上でとても大切です。
「生きる力」とは、この「自己肯定感・自尊感情」が一番大切なのではないかと、私は考えています。
自己肯定感・自尊感情が育っていないと・・・
自己肯定感・自尊感情がうまく育っていないと、極端に言えば、できないことがあったとき、「こんなこともできない自分には、生きている価値がない」と思い詰めてしまいます。
また、自分ができていることができない他人を認められず、「こんなことができない奴には生きている価値がない」という考え方になって、周囲とぶつかりがちになります。
さらに、「できない自分」に自信がなかったり、認められないので、人に頼ることもできず、何でも自分一人で頑張ろうともしてしまいます。
結果的に、どんな能力があったとしても、生き辛さや孤独感を抱えることになってしまうといいます。
自己肯定感・自尊感情を育てる年齢とは?
とはいえ、何でも子どもの言うなりに、ありのままにしておくべき、というわけではありません。
自分が健康に生きていくために必要な「生活習慣」。
人と共に生きていくために必要な「社会のルール・マナー」。
これらは、きちんと大人が伝えていかなくてはいけませんよね。それが、いわゆる「しつけ」です。
スクールカウンセラー・精神科医である明橋大二先生によると、この「しつけ」は、ベースとして「自己肯定感・自尊感情」が育っていれば、身につきやすいそうです。
そして、「自己肯定感・自尊感情」の上に「しつけ」が身についていると、学校へ行く頃は色々なことに好奇心が出て、「勉強」などにも意欲を発揮できると言われています。
年齢的には、
- 【0~3歳】は、まず「自己肯定感・自尊感情」をしっかり育てること。
- 【3~6歳】には、「しつけ」、つまり生活習慣や社会のルールを身につけること。
- 【6歳~】からは「勉強」など。
積み木のように、一つ一つ積み上げていくイメージです。もちろん、3歳まではまったくしつけをしないとか、6歳までは勉強をさせてはいけないという意味ではありません。ただ、優先順位があるという意味です。
また、3歳までに自己肯定感・自尊感情を育てたら、それで終わりということではなく、自己肯定感・自尊感情はずっと育て・守り続けていくことが必要です。逆に、3歳以上になったから自己肯定感・自尊感情を育てるには遅い、ということはなく、何歳からでも育て直していくことはできます。
「自己肯定感・自尊感情」をはぐくむ、子どもの褒め方・叱り方の基本
上記の年齢を参考に、子どもの褒め方・叱り方も変えていくことも必要です。
年齢別の方法については、詳しくは、次の「子どもの「褒め方・叱り方」とは? 年齢別の具体例でご紹介!」でお伝えします。
ここでは、全ての年齢に共通する基本をお伝えしたいと思います。
【褒め方】の基本は「過程を認める」こと
自己肯定感・自尊感情の大切さを踏まえて、褒め方の基本は、「できたら褒める」のではなく「やろうとしたら褒める」ということです。
大切なことは、「結果を評価する」のではなく、「過程を認める」ということです。
もちろん、学校や社会に出たら、結果が評価されるのは事実です。でも、学校や社会と、家庭を同じにする必要はないのです。学校や社会に出て、そんな厳しい現実に向き合ったときに、「でも、これができてもできなくても、自分は生きる価値がある」と前向きに思える心を育てておくのが、家庭ではまず初めに大切なことだと、私は思います。
たとえば、「よくできたね」と評価するよりも、できのよさには関わらず、「ありがとう」と、意欲が嬉しいという気持ちを伝えること。「もっと頑張って」と発破をかけるよりも、「頑張ってるね」と、すでにしている頑張りを認めてあげること。
大人でも、こんな言葉かけをしてもらえたら嬉しいと思いませんか?
「苦手なことをおだてる」よりも「得意なことを認める」こと
私もやりがちなのですが、やって欲しいことをやらせるために褒める、いわゆる「おだてる」ことには、ちょっと注意が必要です。
「〇〇できたね~! 偉いね~! いい子だね~!」
特に「苦手なこと」ができたとき、こんな風に大げさに褒められると、もちろん子どもは嬉しく感じます。これが、苦手を克服するきっかけになることもあります。
ただ、苦手なことを「おだてて、やらせる」をずっと繰り返していると、子どもは「褒められるからやる」「褒められるためにやらなきゃ」という思考になっていきます。将来的には、「自分が本当にやりたいこと」が分からなくなってしまう可能性もあります。
本当は、子どもが一番嬉しいのは、「自分がやりたいと思ってやったことを、認めてもらえること」です。子どもが得意なこと、自分から進んでやったことこそ、思いっきり褒めてあげるのがおすすめです。
たとえば、パパは野球がしたいのに、子どもは絵ばかり描いている。パパにとっては何が面白いか分からないことでも、子どもが進んでやっていることは、その子にはその才能があるということです。
そんなとき、「野球だってやればできる! ほら上手いじゃないか!」と、おだてるのではなく、絵を描くことを認めて、褒めてあげること。それが、子どもの自己肯定感・自尊感情を高めるだけでなく、その子の才能を開花させることにつながります。
【叱り方】の基本は「正しい行動を教える」こと
自己肯定感・自尊感情の大切さを踏まえた叱り方の基本は、褒めることと逆です。
大切なことは、「気持ち(過程)を否定する」ことではなく、「正しい行動(結果)を教える」ということです。
たとえば、友達と喧嘩して、叩いてしまったとき。理由も聞かずに、「喧嘩するなんて、なんて悪い子なの!」と叱ってしまうと、「どうして喧嘩したのか」「何に怒ったのか」という、その子の気持ちも否定することになります。
喧嘩をする、順番を守らない、人の物を取る、おもちゃを散らかす、言うことを聞かない・・・
子どもの自己中心的な行動に困ってしまうことはたくさんありますが、それは、「自己主張」する力や、「自立心」が育っている証拠です。この自己主張したい気持ちや、自立心自体を否定してしまうと、極端に言えば「自分は自分として生きていたらダメなんだ」という、存在自体を否定するメッセージになってしまいます。
そうではなく、「怒っちゃうときがあるのは仕方ないね。でも、叩くのはいけないよ」と、気持ち(過程)と行動(結果)を分けて、正しい行動の仕方をきちんと教えることが、叱り方の基本です。
なお、そうした社会のルールがどれくらい理解できるかは、年齢によりますから、別の対処が必要なときもあります。
詳しくは、次の「子どもの「褒め方・叱り方」とは? 年齢別の具体例でご紹介!」でお伝えします。
子どもが「親を困らせようとする」ときは
子どもが「わざと親を困らせようとしている」と感じるときがあります。そういうとき、理由は二つ考えられます。
1. 子どもが親の関わりを求めている場合
子どもは、不思議なことに、プラスの関わり(褒める、認める)などが十分に満たされていないと、マイナスの関わり(叱る、怒る)でもいいから求めてくる場合があります。
愛の反対は、憎しみではなく無関心だといわれることがありますが、放置(ネグレクト)された子どもは、暴力を受けた子どもよりも深刻な問題を抱えることがあるそうです。それくらい、人間というのは「人との関わり」を求める存在なのかもしれません。
「そんなに叱られたいの!?」と腹の立つときもありますが、「本当はもっと褒められたかったのかな」、と考えてみるとよいかもしれません。
2. 親の責任感がとても強い場合
とても責任感が強い方の場合、子どもの言動の全てが自分の責任だと感じがちです。だから、子どもが思う通りにならないと、子どもが自分に恥をかかせているような気がしたり、子どもにバカにされているような気がしてしまうときがあります。
でも、たいていの子どもは、そんな風に親を攻撃しようという意図は持っていません。また、子どもの日々の言動は、子どものもともとの性格による部分も大きくて、親が全てをしつけたり、コントロールできるものではないのです。
ときには、「私はできるだけことはやっているし、この子もこの子なりに頑張っているんだ」と、肩の力を抜いてみることも大切です。
おわりに
子どもの褒め方・叱り方について、自己肯定感・自尊感情の大切さと、それを育てながら褒める・叱るための基本的な考え方をお伝えしました。
次の「子どもの「褒め方・叱り方」とは? 年齢別の具体例でご紹介!」では、年齢別に、もう少し詳しく褒め方・叱り方をご紹介したいと思います。
参考:東京都教育委員会 子供の自尊感情や自己肯定感について Q&A(PDFファイル)
参考:明橋大二「子育てハッピーアドバイス」「子育てハッピーアドバイス2」、1万年堂出版、2005~2006