育児中のイライラはなぜ起こるのか?
怒りたいわけじゃないのに、つい声を荒らげてしまう・・・。子育てをしていれば、誰もが経験することではないでしょうか。怒りをコントロールする「アンガーマネジメント」専門家の篠真希さんに、イライラしないためのコツなどを伺いました。
――よその子なら笑って済ませられることも、わが子だとどうして怒ってしまうのでしょう?
怒ってしまうのは、子どもに対して一生懸命だから、かもしれません。きちんと育てたい、きちんと育ってほしい、と真剣に考えている証拠です。
それから、怒ることが「クセ」になっていて、子どもに反射的に怒る習慣がついている場合。これは「しつけには怒るのが一番」とインプットしてしまっているためです。
実際には、だんだん効果がなくなり、ますます激しく怒ってしまう・・・と悪循環に陥るので、全然いい方法ではないのですが。
「べき」が裏切られると怒りが生まれる
――そもそも「怒り」は何から生まれるのでしょうか。
怒りは、理想と現実との「ズレ」から生まれます。
自分の理想や期待は「〇〇すべき」という考えに投影されます。人に会ったらあいさつするべき、ご飯は残さず食べるべき、など。
この「べき」が思いどおりにならないと「なぜできないの?」「私の思いがなぜ伝わらないの?」とガッカリ。そのたびにイラっとするわけです。
期待が高いほど、裏切られたときの失望感は大きいですよね。このイライラが心に溜まり、限界を超えると怒りになるのです。
「マイナス感情」が怒りの燃料になる
――心に溜まる「イライラ」とは何でしょう?
感情にはプラスのものとマイナスのものがあります。うれしい、楽しい、幸せなどがプラス。つらい、悲しい、苦しい、怖い、心配、罪悪感などはマイナス。イライラにつながりやすいのはマイナス感情です。
怒りのメカニズムをライターで例えると、マイナス感情はライターの「燃料」。心に余裕があるときは燃料が溜まっていないので、イラッとすることが起きても、怒りの炎はさほど大きくなりません。
でも満タンのときは、あるきっかけで着火スイッチが押されてしまうと、怒りの炎が大きく燃え上がるのです。
心身の疲れも怒りを引き起こす
――マイナス感情を生みやすいのはどういうときでしょうか?
直接的にマイナス感情を生む出来事がなくても、疲れていたり、体調が悪い、ストレスがあるときは「マイナス感情を抱えやすい状態」ですので、怒りやすくなります。
子どもも、眠いときや空腹のときは怒りっぽくありませんか? 大人も同じです。
そもそも子育て中のお母さんは、やらなければいけないことが毎日山積みです。育児への不安や焦りもあります。そんな思いを抱えながら、寝不足だったり、体調が悪かったりすれば、ますます心に余裕がなくなります。
怒りをコントロールする5つのコツとは
――怒りをコントロールするにはコツがありそうですが、子育てする上で特に心掛けておくことはありますか?
まず、怖い顔で怒鳴りつけなくても自分の感情は表現できる、ということを知ってください。
「怒り」は感情の一つなので、良いも悪いもありません。問題なのはその表現方法。衝動的に怒ることは親子関係を悪化させるばかりです。
まずは「6秒」やりすごそう
――イライラを感じたら、初めに何をすればいいですか?
イラッときたらまず深呼吸しましょう。深呼吸には、息を吐くときに気持ちが落ち着く効果があると分かっています。
怒りの衝動性はせいぜい6秒程度と言われています。「6秒間、とにかく落ち着こう」という意志を持って続けるうちに効果が表れてきますよ。
「魔法の呪文」もおすすめです。例えば、お子さんの好物とかハマっているものとか、お母さんが好きな言葉でもいいですよ。何か一つ、呪文になる言葉を決めておいて、怒りそうになったら3回唱えます。お母さんが「呪文」を唱えだしたら、怒っても感情的にならないようにしている様子がお子さんに伝わり、「お母さんは怒ってる。でも怒鳴らないようにしてくれてる」と分かってくれます。
――子どもが悪いことをして怒りたいときでも使えますか?
使えますよ! 怒ってはいけないのではなく、怒るときに感情的になる必要がない、ということです。
例えば、妹や弟を叩いたら「ダメだよ」と伝える。テレビを見るのは宿題をやってから、という約束を守らずにテレビを見ていたら「テレビの前に宿題でしょ?」と言う。感情的にならない方がうまく伝わります。
――カッとなると反射的に怒ってしまいます・・・。
ついひと言出ちゃう、というお母さんは多いです。「まったくもう!」とか。そういうときは、気づいた時点で深呼吸するということでも大丈夫です。
子どもに協力してもらうのも効果的です。「落ち着くから6秒待って!」と言って一緒に数えたり、呪文を唱えたり。きっと協力してくれますよ。子どもだって怒られたくありませんから(笑)。
子どもの身になって考えてみよう
――子どもに怒りを伝えるとき、気を付けることは何かありますか?
子どもが何か悪いことをしたときに、その子の表情や反応をよく見ないで怒ってしまうことがありませんか?
例えば、コップを倒してジュースをこぼしてしまったとき。つい「だから言ったじゃない!」「なんでいつも不注意なの!」と言ってしまいがちです。でも表情を見れば、反省しているかどうか分かるはず。何が悪かったかをあらためて言う必要はありません。
「自分でキレイにしようね」と次の行動を促したり、「どうしてやっちゃったのかな?」と理由を考えさせたりと、もう一歩先の話をした方が前向きではないでしょうか。
子どものイライラには同調せずに対応しよう
――子どもがイライラすると、こっちまでイライラしてしまいます・・・。
共感することは大切ですが、つられたり、同調する必要はありません。これについては、イヤイヤ期や思春期のお子さんを持つお母さんに「お母さん自身は『~期』じゃないですよね?」ってお伝えすると、ご自身で気づいてくださいます。
成長期の子どもは日々、壁にぶつかり、自分と葛藤しているのです。イライラもしますよ。だからお母さんは、「成長しようと頑張っているんだな」とドーンと構えて子育てするくらいでちょうどいいんです。
怒りに関する「記録」を付けてみよう
――怒ってしまった後から取り組めることはありますか?
自分の言動や、何に怒っていたのか忘れてしまう人には、「アンガーログ」(怒りの記録)を付けることがおすすめです。
怒ったとき、
・いつ
・どこで
・何があって
・どうしたか
を記録します。
見直してみると、育児中、どんなことに怒りを感じるかが分かって、怒ったときの言動を見直すヒントになります。
「べきログ」というものもあります。これは、自分が「こうあるべき」と思うことをどんどん書き出します。
「人にはやさしくすべき」「子どもは早く寝るべき」など。中には理不尽なもの、単に自分の欲求をぶつけているだけ、ということもあるかもしれません。
それらに優先順位をつけて、怒るに値することなのかを見直します。子どもの年齢を考えると無理がある、と気づけば、怒ること自体が減るかもしれません。
「ハッピーログ」で楽しいことに目を向けよう
――スマートフォンなどを使って簡単に記録することでも自分を振り返ることができますね。
そうですね。その中でも私が一番おすすめするのは「ハッピーログ」です。これは、楽しかったことや幸せと感じたことを記録するものです。「ご飯を完食した」「朝、自分から起きた」などささいなことでかまいません。
育児に関することに限らず、生活の中での楽しいこと、好きなことを毎日書き出します。続けると、楽しかったことや幸せなことがいつでもパッと思い出せるようになります。
先ほど「心に余裕がないときほど、マイナス感情を抱え込みやすい」と話しました。ハッピーログには、プラスの感情を多くしておく効果があります。毎日忙しくて、いつも疲れている育児中のお母さんにこそ、ぜひ付けてほしい記録です。
それでも感情的に怒ってしまったら
そうはいってもなかなか怒りが収まらないことも。感情的に怒ってしまったらどうすればいいのでしょうか。
子どもに怒りすぎたと思ったときにはこうしよう
――怒りすぎたな、と思ったら、謝ってもいいのでしょうか?
謝っても大丈夫です。というより、ぜひそうしてください。
怒りすぎたと思うのは否定的なことを言ってしまったときが多いと思いますが、特に、人格を否定してしまったらすぐに訂正してください。そうしないと、お母さんの言葉が子どもに刷り込まれてしまいます。
「だらしない」と言われ続ければ「自分はだらしない子なんだ」と思い込み、だらしがない、というレッテルに抵抗がなくなってしまいます。そうならないように「だらしないわけじゃないよね、ごめんね」と訂正する必要があるのです。
親が努力する姿を子どもに見せよう
――すぐに訂正することが重要なのですね。
覚えておいてほしいのは、子どもは親の感情表現をマネる、ということ。
もしお母さんが怒りすぎたとき、すぐに「言いすぎちゃった、ごめんね」と言えば、子どもはその方法を学び、「言いすぎちゃってごめんなさい」と言えるようになるでしょう。
間違ったときに謝ることができるというのは、いくつになっても大切なことです。
「アンガーマネジメント」を実践してみた
篠さんに伺ったお話を踏まえて、家庭で「アンガーマネジメント」を実践してみました。筆者は40代の在宅ワーカーで、小5の息子と小2の娘がいます。もっと大らかに子育てしたい、と思いつつ、ついイライラしてきつい言い方をしてしまい、後悔する日々を過ごしています・・・。
子どもが時間を守らなかったとき
公園に遊びに行くと、なかなか約束の帰宅時刻を守れない小2の娘。遅れて帰宅するたびに「〇時って言ったのに!」と怒っていました。
しかし考えてみると、約束の時間が過ぎた時点で、遅れて帰ることが分かります。このため、娘が帰宅する前に「頭ごなしに怒らない」と心の準備ができました。
この日も約束より15分遅れて帰宅しましたが、娘には「約束の時間に帰ってこないと心配になるよ」と冷静に伝えることができました。
子どもが使ったものを片付けないとき
片付けが苦手な小5の息子。遊び始めると、部屋中があっという間にモノだらけになります。散らかった部屋を目にすると頭がカーッとして「使ったら片付けてよ!」とプンプンしながら片付けるのがいつものパターンでした。
しかし「自分のものは自分で片付けるべき」との思いが強すぎたことに気が付き、全てを息子にやらせるのも無理があるな、と思い直しました。
この日も気づけば、遊んだものをほったらかして、リビングのソファで本を読んでいます。イラっとしましたが、まずは深呼吸でクールダウン。
夕飯の支度で忙しかったため、「遊んだ後は片付けてね。しまう場所が分からなかったら聞いて」と声を掛けました。口調は少しキツくなってしまいましたが、怒鳴るよりはマシ、と自分に及第点を付けることができました。
子どもの「イライラ」が伝染するとき
登校時間直前に忘れ物に気づいた息子。「一緒に探して! 早く!」と慌てる様子にこっちもイライラ。いつもは「なんで今なの?」「落ち着いて探して!」と大声になり、息子がさらにイライラ・・・の悪循環でした。
このときは「探し物が見つからなくて慌てるのはしょうがない」と自分に言い聞かせ、探すのを手伝うことだけに集中しました。
探しものが見つかると「お母さん、ありがとう!」と笑顔を見せる息子。その顔を見たとたん、自分の中の怒りもどこかへ。イライラをぶつけなくてよかった、と実感した出来事でした。
おわりに
アンガーマネジメントを実践してみて、怒るクセに気づけたのはもちろん、「怒鳴らずに済んだ」という成功体験は大きな収穫でした。
篠さんは「感情に流されやすいのはむしろ子どもの方。一緒になって流されずに『大丈夫、大丈夫』と受け止めてあげてほしい。親が変われば子どもも変わります」と言います。
「アンガーマネジメントをやろう」と構えすぎず、この記事の中でできそうなことから取り入れて怒り方のコツをつかめば、子育ての時間をもっと楽しく過ごせるようになるのではないでしょうか。