水には硬水と軟水がある!
すべての水は、ミネラルの種類と量により硬水と軟水に分けることができます。硬水と軟水の特徴や上手な使い分け方、水道水とミネラルウォーターの違いなど、日ごろの生活に役立つ水に関する知識を、アクアソムリエマイスター・公認講師でメディアでも活躍されている鶴田雅人さんに解説していただきました。
水の「硬度」とは
「水の硬度は、水の中に含まれているミネラルの量で決まりますが、日本の基準では、ミネラルの中でもカルシウムとマグネシウムの量で硬度を決めています」(鶴田さん)
ミネラルウォーターの硬度を知るには、ペットボトルのラベルなどに表記された栄養成分表示を見てみましょう。鶴田さんによると、そこに硬度やカルシウムとマグネシウムの含有量が記載されていることが多いのだそう。
硬水と軟水の硬度差
硬度が高い水が硬水、低い水が軟水と呼ばれますが、その基準値はいくつかあるそうです。上の表は、鶴田さんに教えていただいたアクアソムリエの基準です。
硬度によって味わいに違いがあることが分かりますね。自分の好みに合わせて選べるといいですね。
日本の水は硬水? 軟水? 水道水は?
鶴田さんによると、日本の天然水は軟水が多く、水道水も軟水とのこと。しかし、軟水といっても硬度や水質には地域差があるそうです。
「カルシウム、マグネシウムの含有量だけではなく、例えば海が近いと塩気が少し強くでることも。これは土壌の影響を受けているからです。また、その水道水の元になる水が、地下水なのか、ダムの水なのかという点でも水質が異なります。熊本市や北海道東川町の水道水は地下水100%。地層のフィルターによって水が磨かれておりとてもおいしいです。首都圏の場合は、ダムからの水が多いです」(鶴田さん)
国産のミネラルウォーターも多くが軟水ですが、「ファミリーマートで販売されている『宮崎県霧島の天然水』は硬度が150mg/Lで、メーカーさんは硬水とされています」と鶴田さん。完全な軟水でないものもあるそうです。
水道水の硬度差がだしの味の違いになった?
関東と関西のだし汁の味の違いには、水の硬度が関係しているともいわれています。
「関東は関西に比べて水道水の硬度が少し高く50mg/Lくらい、関西では30mg/Lくらいです。硬度が低いほうがより繊細なだし汁の味を出しやすいといわれているので、関東は濃い味に、関西は薄味になったといわれています。断言はできませんが、理にかなってはいますね」(鶴田さん)
水道水は飲用に適している?
鶴田さんによると、水分補給という観点からいえば、ミネラルウォーターではなく、通常の水道水でも問題はないそう。
「塩素が気になる方は、浄水器を使えば水道水でもおいしく飲むことができます」(鶴田さん)
また、全国の水道事業体では、安全でおいしい水道水を供給することに力を入れており、水道水のペットボトルを作ってアピールしているところもあります。全国各地の水道水を味比べするのも面白いですね。
炭酸水は硬水? 軟水?
炭酸水は炭酸ガスが含まれる水のことを指します。炭酸飲料のように、人工の炭酸ガスを水に加えたものだけではなく、炭酸ガスを含む地層から採水された天然炭酸水もあります。しかし、人工と天然で大きな味わいの差はありません。
「人工炭酸水の硬度は、元の水の硬度が由来となります。そのため、日本の水道水で炭酸水を作れば、基本的には軟水です。 ヨーロッパでは天然炭酸水の水源が多いため、昔からレストランなどでもよく天然炭酸水が提供されていました。ヨーロッパでは硬水が多いので、天然炭酸水も硬水のケースが多く、日本でもおなじみのペリエなどもそうです。 一方、日本の天然炭酸水の水源は主に2カ所です。伊勢志摩サミットで卓上水として提供された奥会津金山の『天然炭酸の水』がよく知られています。こちらは、軟水で微炭酸のため、繊細な和食にも合わせやすいとされています」(鶴田さん)
プロに聞く! 軟水と硬水の使い分け方とは?
硬水と軟水にはそれぞれ特徴がありますが、料理に使う場合や、お茶やコーヒーなどをいれる場合にはどちらが適しているのでしょうか? 鶴田さんに伺いました。
料理に使う水は硬水・軟水どちらがおすすめ?
鶴田さんによると、「日本人が料理をする場合は、基本的には軟水のほうが向いていると思います」とのこと。
ただし、以下のような調理では硬水が向いているそうです。
・肉を煮る時
「硬水に多く含まれているカルシウムは、あくの生成を助けるので、肉を煮る時に硬水を使うと肉の臭みを取り除きやすくなります。また、肉が柔らかくなるとされています」(鶴田さん)
・パエリア、パスタなど
「硬水で米を調理すると芯が残りやすいので、パエリアのような米料理には適しています。また硬水でパスタをゆでるとアルデンテに仕上げやすいともいわれます」(鶴田さん)
また、求める味に合わせて使い分けるのもよいとのこと。
「以前シェフと、硬水・軟水それぞれでミネストローネを作ったことがありましたが、出来上がりの味が違いました。シェフが言うには『素材の味を生かしたいなら軟水、炒めたベーコンを入れるような少しパンチのあるスープなら硬水が適している』とのことでした」(鶴田さん)
ただし、軟水には水道水が使えますが、硬水で調理したい場合はミネラルウォーターを使うことになるので、その分費用かかるのが難点ですね。
日本茶やコーヒー・紅茶、お酒がおいしくなるのは硬水? 軟水?
「日本茶をいれるには、やはり日本の水ということで軟水がいいでしょう。しかし、それ以外は好み次第だと思います」(鶴田さん)
コーヒーや紅茶は、中硬水くらいでいれたほうが本場の味に近くなるという考えの一方で、「中硬水のほうが優れているかというとそうとも言えない」と鶴田さん。
「あるバリスタの話では、さまざまな硬度の水を試した結果、結局は軟水に戻ったそうです。だし汁と同じで、軟水を使うとコーヒー自体の味わいが出やすく、中硬水だとボディーのしっかりした、酸味が薄めの味に仕上がるとのことでした。どちらが好みかや、豆や茶葉の種類にもよるので、ぜひご自分で試してみてください」(鶴田さん)
お酒の割水も同様で、軟水で割った方が柔らかく飲みやすくなるそうですが、中硬水なども試してみて、自分の好みを見つけてほしいとのことです。
アクアソムリエに聞く! 飲料水に関するQ&A
水やミネラルウォーターに関する正しい知識を広く伝えるアクアソムリエ鶴田さんに、飲料水に関する気になる疑問を伺いました。
「天然水」「ナチュラルミネラルウォーター」の違いは?
「天然水=ミネラルウォーターととらえがちですが、農林水産省のガイドラインによると、ミネラルウォーター類とされるものには上の表に記載の4つがあり、『天然水』という表示区分はありません。そして、ナチュラルウォーター、ナチュラルミネラルウオーター以外のものに対する『自然』『天然』、またそれに類似する用語の表示は禁じられています。
4つのうち最も天然の状態に近く、販売量の面からもメジャーなのが、『ナチュラルミネラルウォーター』です。それ以外では、『ナチュラルウォーター』『ミネラルウォーター』『ボトルドウォーター』があります。ラベルに記載があるので、ぜひ確認してみてください」(鶴田さん)
参考:農林水産省「ミネラルウォーター類(容器入り飲用水)の品質表示ガイドライン」
赤ちゃんに適した水は?
「赤ちゃん用として販売されている『純水』というのは、科学的な処理をして、汚れはもちろんミネラルもすべて除去した水。粉ミルクは、純水で作ることを想定して調製されていて、純水で作った時にメーカーが想定した栄養価のミルクになります。
しかし、国内で販売されているミネラルウォーターなら、粉ミルクに使っても、赤ちゃんに飲ませても基本的には問題ありません。ただし、温泉水は例外です。温泉水はカルシウムやマグネシウム以外にたくさんの成分が入っているので、赤ちゃんにはよくないことも考えられます。ラベルをよく確認してください」(鶴田さん)
妊娠時に水道水は控えるべき?
「水道水で問題になるのは、塩素と、発がん性があるといわれているトリハロメタンのことだと思います。性能の良い浄水器ならこれらを除去することもできるので、気になる方は浄水器を取り付けるか、ミネラルウォーターを利用するとよいでしょう」(鶴田さん)
日本人には硬水は向かないってホント?
「日本の水は基本、軟水なので、硬水は味の面でギャップがあることも。また、マグネシウムの作用でお腹がゆるくなることもあります。まずは一日コップ 1杯くらいからはじめて、徐々に慣れていくようにするのがおすすめです。ただし、体質に合わないこともあるので、無理はしないようにしてください。
また、日本で手に入れやすい『エビアン』は硬度304mg/Lの中硬水ですが、『コントレックス』は硬度約1468mg/Lの超硬水と差があるので、硬水を軟水で割って飲むのも一つの飲み方です」(鶴田さん)
スポーツをする時におすすめの水は?
「スポーツをして汗をかくと、大量のミネラルが失われますので、ミネラルを多く含む硬水で水分補給をするとよいでしょう。また、血行がよくなるとされるので、運動の際は炭酸水もおすすめです」(鶴田さん)
硬水はダイエットに有効?
「硬水を飲むと痩せるというわけではありません。ダイエット中は食べ物が制限されるためミネラルが不足しがちになります。そのため、ミネラルの補給をするために硬水が役立つというだけです。硬水=ダイエットではありませんが、ダイエット中の水分補給には硬水がおすすめです」(鶴田さん)
おわりに
水に関して幅広い知識を持つアクアソムリエの鶴田さんに、硬水と軟水の特徴や適切な使い分けを教えていただきました。水の硬度に注目して、自分の好みに合った水を見つけてみるのもいいですね。