子どもの転落事故の原因は?
医療機関を通じて消費者庁に寄せられた事故情報のうち、入院を必要とする14歳以下の子どもの事故は、平成29年4月から令和4年3月までの5年間で1,258件。そのうち、転落事故が412件(32.8%)です。
「消費者庁や各地方自治体では、子どもの転落防止に関する注意喚起を行っています。しかし、転落事故の件数はほとんど減っていません」(大野さん)
転落の危険性が広く認知されながらも、なぜ子どもの転落事故は起こり続けるのでしょうか。その原因について、事例と共に大野さんに解説していただきました。
参考:消費者庁「子どもの転落事故に注意!」
歩き始めた時期の子どもは転倒・転落しやすい
「歩き始めたばかりの1~3歳程度の子どもは頭が大きく、歩行も安定していません。そのため転倒・転落しやすいのです。窓際に置いてあるソファによじ登って、頭を出して転落してしまったという事例もあります」(大野さん)
低年齢の子どもは、少しバランスを崩せば簡単に大きなケガにつながる可能性があるものだと認識し、対策する必要があります。
身体能力が高くなると高い場所にも上がってしまう
成長して身体のバランスがよくなってくると安心できるかというと、そうでもありません。
「3歳以降になり身体能力が上がってくると自分の身体をうまく使えるようになってくるので、高いところにも登れるようになります。知能も発達して『ここに上りたい』と思ったら、さまざまなところを足がかりにしたり、自分で台になる物を持ってきたりして登ってしまい、その結果、転落してしまうことがあります」(大野さん)
ベランダの手すりは、建築基準法により高さ1.1m以上と定められていますが、実際には子どもたちはその高さでも足がかりや台を使って上ってしまうことがあります。また、ベランダにはエアコンの室外機やガーデニング用の棚など、子どもが足がかりにしやすいものが置かれていることも少なくありません。致命的な重傷を負いかねないベランダからの転落を防ぐための対策は、子どもがある程度大きくなるまで必要と言えるでしょう。
家の中には危険な場所がたくさんある
「家の中のさまざまな場所に転落リスクがあります。ベランダや窓だけではなく、例えば、階段からの転落事故件数は多く、重傷となるケースもあります。また、大人用のベッドやソファからの転落事故件数も多いです」(大野さん)
家の中の転落リスクのある場所に対策ができていないと、大人がそばにいても転落事故が起こることも。
「子どもから常に目を離さないようにするといっても、家事や仕事があるので常に子どもを見ているわけにはいかないのが現実です。だからこそ、大人が見ていなくても危険がない環境にしていく必要があるのです」(大野さん)
【場所別】子どもの転落防止対策
「ある程度、言葉が分かるようになった子どもには『ここから落ちてしまうと死んでしまうから、上がってはいけないよ』と教えてあげることも大事です。しかし、100%子どもが安全行動をとることは実際には難しいので、子どもに教えてあげることは“予防”とは言い難いと思います。親が見ていなくても安全な環境が確保できている状態が理想と言えます」(大野さん)
大野さんは、まず、予防グッズなどを正しく使って対策すること、そして幼児がソファに上ってしまうなど回避できないリスクに対しては、下に衝撃を抑えるためのマットを敷くといった工夫をすることが必要だといいます。
家の中で転落事故が起こる危険性が高い、ベランダ・窓、階段、ベッド・ソファ、それぞれについて、転落防止対策やグッズを紹介します。
ベランダ・窓の転落防止対策
ベランダや窓からの転落は、致命的な事故になることも。そのため、そもそも子どもがベランダや窓の外には出られないようにする対策が必要です。
「私たちが行った調査では、7割の親御さんがベランダに通じる窓に対策していませんでした。その理由は、『子どもを一人でべランダに出さないから大丈夫』『見守っているから大丈夫』というものでした。
しかし、基本的には親御さんが目を離した時に事故は起きています。実際に子どもはベランダへ出てしまっているので、万が一のためにべランダに行けないようにする対策が必要です」(大野先生)
大野さんによると、窓からの落下を防ぐために大切なことは、「ベランダや窓の前に足がかりとなるものは置かない」ということだそう。できる限りベランダの柵の前にモノを置かず、窓の前にはソファや棚など足がかりになるものは置かないようにしましょう。
その他に効果的な対策のひとつは、窓に補助錠をつけることです。
「補助錠はさまざまな種類が販売されていますが、窓枠の下方につけるものだと子どもも触れるので開けてしまうリスクがあります。しかしつける位置が上すぎると、背の低い大人も手が届かず不便なこともあります。補助錠はこうした使いにくさから、設置を断念する方や、使うのをやめてしまう方もいるようです。補助錠を使う時は、設置する高さに気を配って選んでください。
私がおすすめするのは、一般的な引き違いの窓に使用できる、貼り付けることで窓が開かなくなる商品です。この商品は、いくつかの種類があり、“窓ストッパー”“窓ロック”といった名称でECサイトでも販売されています。
使用法はとても簡単で、外側の窓に商品を貼ると、それがストッパーとなって窓が開閉しなくなります」(大野さん)
窓ストッパーは、大人には手が届くけれど、子どもは届かない位置を選んで取り付けが可能です。
また、締め切らずに換気もしたいという場合は、少し窓が開く位置で幅をもたせて取り付けると、子どもの身体が外へ出ない幅で窓を開けておくことも可能です。
階段の転落防止対策
大人が目を離している時に、子どもに階段を“下りさせない”“上らせない”ようにすることが転落を防ぎます。そのために効果的なのは柵の設置です。
「柵を設置する際に気をつけていただきたいのは、しっかり固定することです。基本的にはねじ止めしないと子どもの体重で柵が倒れて、柵と一緒に子どもが転落してしまう可能性もあります」(大野さん)
賃貸の場合は、退去時に原状回復が義務付けられているため、壁にねじ穴が開くことを懸念する方もいるでしょう。事前に貸主や不動産会社にねじ止めが可能か確認して、可能ならねじ止めしましょう。
また、柵は階段の上だけではなく、下にも必要です。下に柵がないと、子どもが自分で下から階段を上って落ちてしまうこともあるからです。
そして気をつけたいのは、柵の閉め忘れ。せっかく柵がついていても、開いていては対策になりません。閉め忘れの懸念がある場合は、自動で閉まる機能が付いているものを選ぶとよいでしょう。
ベッド・ソファの転落防止対策
「原則として、赤ちゃんをベッドに寝かせるならベビーベッドを使い、大人用のベッドには寝かせないでください」(大野さん)
大人用のベッドでもベッドガードを使うなどの転落対策をしていれば大丈夫なのでは? と考える方もいるかもしれませんが、大野さんによると、「転倒防止用のベッドガードは、寝返りをした際にベッドガードが動いてしまうことがあります。そうすると、ベッドとベッドガードとの間に隙間ができることがあり、実際にその隙間に転落して挟まって、お子さんが亡くなってしまった事例もあります。ベッドガードは生後18カ月未満の子どもには使用しないことと安全基準で定められています」とのこと。
また、赤ちゃんが転落した時のためにと、ベッドやソファの下にぬいぐるみや柔らかい布団などを敷き詰める方がいますが、これは危険なのだそう。「赤ちゃんがうつ伏せで転落した時、顔が柔らかいものに覆われて窒息してしまうリスクがあります」(大野さん)
子どものケガに関する経験を発信・共有することが安全な環境づくりにつながる
大野さんは、「事故が起きてしまった時、危ないと感じることがあった時、自分の不注意を反省するだけではなく、ぜひ『このような状況で、こうした事故が起きた』ということを消費者として発信していただきたいです」と話します。
そうした事例を受けて、メーカーは安全で便利な商品作りにつなげることができ、行政もサポートがしやすくなるからです。
「SNSの普及によって誰もが発信力をもてる現在、さまざまな知見が集まっていくことが、未来の子どもたちの安全にもつながります」(大野さん)
経験や事例が共有できる場所としては、東京都とSafe Kids Japanが運営する「こどものケガを減らすためにみんなをつなぐプラットフォーム Safe Kids」もあります。
「『こどものケガを減らすためにみんなをつなぐプラットフォーム Safe Kids』にある『みんなの声』より、お子さまがケガをしてしまったことや、ケガをしそうになったこと、予防に役立つ商品の紹介などを投稿していただけます。私たちも、投稿を受けてコメントさせていただいています。ぜひ情報をお寄せください」(大野さん)
こどものケガを減らすためにみんなをつなぐプラットフォーム Safe Kids
【専門家に聞く】子どもの転落防止対策Q&A
子どもの転落防止対策についてよくある疑問点を大野さんに伺いました。
Q.窓の施錠が対策としてあげられていますが、換気対策や網戸にしたい場合はどうすればいいでしょうか?
A.窓ストッパーを使えば、窓を少しだけ開けられるので換気は可能です。網戸は基本的には子どもの体重を支えるようには作られていないので、子どもの転落を防げません。そのため転落防止目的での網戸の使用は避けましょう。
Q.賃貸住宅を借りる時や家を建てる時の注意すべき点は?
A.部屋の広さにも関わるので難しいですが、できたら窓の前にソファやベッドを置かずに済む間取りを選びましょう。また、出窓の前に腰を下ろせるスペースがあると、そこに子どもが座って転落してしまう可能性がありますし、らせん階段は踏み外しやすいため、転落のリスクが高いです。
注文住宅の場合は、窓の鍵の高さは自分で決められるので、ベランダにつながる窓の鍵を子どもの手が届かない位置につけることも可能です。ベランダの柵も高くして、横桟など子どもの足がかりになりやすいデザインは避けましょう。
Q.子ども自身に転落の危険性をどのように伝えたらいいのか教えてください
A.言葉が理解できるようになったら、「高い所から落ちたら、死んじゃうよ」とはっきり伝えるのがいいと思います。
しかし、子どもへの教育によって転落を防ぐことは基本的には困難です。子どもの好奇心が勝ってしまうこともあるでしょうし、落ちたらどうなるかを伝えても、子どもがそれをしっかりと理解できるとは限りません。
そのため、子どもへの教育はいわば『オプション』と考えてください。危険性を伝えるのは大事ですが、それは対策にはならないことを親が十分理解する必要があります。
ある程度の年齢になるまでは、転落すると命の危険もあるベランダや窓や階段などは補助錠や柵といったグッズを使って出られない・降りられないようにしておきましょう。
おわりに
子どもの転落事故について、NPO法人「Safe Kids Japan」の理事を務める大野美喜子さんにお話を伺いました。家庭内には転落リスクのある場所が多いため、一つ一つ確認して対策を行って、安全な環境を作っていくことが必要だと分かりました。
同時に、子育て現場からの声を積極的に企業や行政に届けることも意識して、子どもを転落事故から守っていきましょう。