子供の食事でみんなが困っていることは?
厚生労働省「乳幼児栄養調査」の「現在子どもの食事について困っていること」(回答者は2~6歳児の保護者)の回答を見ると、2歳~3歳未満では「遊び食べをする」と答えた人が41.8%、3歳~4歳未満、4歳~5歳未満、5歳以上では「食べるのに時間がかかる」と答えた人がそれぞれ 32.4%、37.3%、34.6%となっています。
この他に、「偏食をする」「むら食い」「早食い」「よく噛まない」「食べ物を口にためる」といった回答も見られます。
子どもがご飯を食べないことで悩んでいる親御さんが多いことを裏付けするようなデータです。
これに対して、多くの保護者をサポートしてきた経験を持つ管理栄養士の隅弘子さんは、「子どもがご飯を食べないと親は困ってしまって、イライラすることもあるでしょう。それが高じて親にとって大きな悩みになる場合があることもよく分かります。でも、ご飯を食べない理由が分かればいずれは解決しますから、心配し過ぎないようにしましょう」といいます。
「離乳期」「幼児期」「学童期」という子どもの成長過程ごとに、ご飯を食べない理由として考えられることや試してみたい対策、隅さんならではのアドバイスをご紹介します。
出典:厚生労働省 平成27年度 乳幼児栄養調査結果の概要
【離乳期】赤ちゃんは食べるタイミングが合わないと食べない
隅さんによると「離乳期は、1日1回食から3回食までの過程を経る中で、『食事をする』という感覚を経験し、食習慣を形成していく時期」とのこと。
具体的には、離乳期は「口にスプーンが触れる(食べさせられる)」という体験と「おなかがすいたから食べる」という意識がまだ別々の点として存在していて、つながっていない時期だということです。
「この点と点がつながらなければ、子どもにとっては『口を開けた時に何かを突っ込まれた』という感覚で終わってしまいます。逆に偶然おなかがすいている時に、ママがスプーンを差し出してくれたら『おいしい』と感じることもあるでしょう」(隅さん)
つまり離乳期は、子どものおなかがすくリズムと食べるという体験を擦り合わせていく時期なので、「食事」「栄養を摂取する」というより、「体験の時間」という意味合いが大きいのだそう。
この時期の子どもが「食べた」というのは、たまたまおなかがすくタイミングとうまく合ったからで、逆にタイミングが合わなければ子どもにとっては「今は違う」ということで口が開きづらく、これが結果的に「食べない」になってしまうとのこと。
結論として、離乳期にはまだ子どものスキルや経験が「食べる」という行為にまで到達していないことが多いので、「離乳食を食べない」ことを深刻に悩む必要はないそうです。
それでも気になる時には、こんな方法も試してみて
離乳期の「食べない」はあまり心配しなくてもよいとはいえ、子どもが「スプーンをもっていくと嫌がる」「口に入れるとすぐ吐き出してしまう」といった状態でご飯をなかなか食べない場合はどうしても気になってしまうでしょう。そんな時に試してみてほしいことを隅さんに教えていただきました。
- 離乳食に子どもにとって硬い食材や、食べづらい食材を使わないようにする。
- 離乳食の温度に注意。人肌程度を目安に、熱すぎたり冷たすぎたりがないかチェック。食材の温度が適温でないため嫌がるケースもある、冷ますなどして試してみる。
- 食具の素材や大きさを見直してみる。特にスプーンの形状には注意を。使っているスプーンが深すぎる、浅すぎる、大きすぎるなどの理由で食べたがらないこともある。
- ベビーチェアの角度を見直す。特に初期においては椅子の角度が子どもに合っていないために離乳食を飲み込みづらくなっている場合もある。子どもを少し斜めにして「ごっくん」が上手にできる状態になっているか確認を。
- 離乳食は手作りや市販のものをいろいろ与えてみながら、子どもが好んで食べるものを見つけるようにする。
- 乳汁(ミルク・母乳)を与えすぎない。乳汁の飲みすぎでおなかいっぱいになると、空腹感や興味が引き出しにくい。
ウチコトでは、離乳食について、大人の食事から取り分けて簡単に作れるレシピをご紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。
【幼児期】ご飯を食べないのは成長の証であることも
隅さんによると、子どもが幼児期に移行していく間にご飯を食べなくなったと悩んでいる人も多いそうです。
「離乳食の時は問題なかったのに、2歳を過ぎた頃からあれもいや、これもいや、が始まって、野菜をまったく食べなくなったなどの相談が増えます。実はこれ、お子さんが味わいを感じるステップに入った成長の証としてむしろ喜ぶべきことなのです。しかも言葉の理解が進み、子どもが親と意思疎通ができるようになった証拠でもあるので悩む必要はありません」(隅さん)
子どもがご飯を食べないことだけを見るのではなく、隅さんがいうように、子どもの成長と併せて考える視点を持てるといいですね。
幼児の「いや! 」対策はどうすればいいの?
ご飯を食べないのも成長の一つと理解しても、せっかく作ったご飯を「いや! 食べない!」と断固拒否されると、つい「いやと言わないで食べなさい!」と強い口調で言ってしまうこともありがちです。しかし、「そこはまず、子どもが『いや!』と言えた、その気持ちを受け止めてください。親がそこでモヤモヤした気持ちを抱えていると、子どももご飯を食べる気分になれません。一旦クールダウンしましょう」と隅さん。
隅さんのアドバイスは続きます。「例えばいつもママが食べさせているなら、時にはパパが食べさせるようにして、ママは子どもの食べている様子を客観的に観察してみるのもおすすめです。今まで気付かなかったことが見えてくるかもしれません。問題の片鱗が見えれば、それに対しての対応策を考えていけばよいのです」
また、「食卓は楽しい空間で、みんなで食べるとご飯はおいしい」という雰囲気づくりも重要だと隅さんは教えてくれました。そのためには、たとえ子どもがイヤイヤ期真っ最中でも、できるだけ家族一緒に食卓を囲み、食べることを通したコミュニケーションをとりながら楽しい時間が過ごせるよう工夫してみるのがよさそうです。
「早く食べて」は禁句。別の言葉で伝えよう
また、親が子どもに対して言ってしまいがちな「早く食べなさい」は「禁句にしてください」と隅さん。
本当はよく噛んで食べてほしいと願っているのに、なかなか食べない子どもの様子に、ついつい「早く食べて」と真逆の言葉掛けをしていませんか。
「早く食べてと言うのではなく、『お口をもぐもぐさせるよ』『お口の中にあるものは小さくなってきた?』『小さくなったら次を入れるよ』というように具体的に伝えます」(隅さん)
そうすることで、結果的に早く食べられるようになるそうです。どうすれば子どもが早く食べ終われるのかを、考えてみるとよいでしょう。
幼児の野菜嫌いは大人のせいかも!?
隅さんによると、幼児期の子どもがご飯を食べない理由の一つに、大人の感覚が優先されて子どもへの配慮が足りていないということがあるそうです。
「離乳食期が終わると、家族と同じメニューにすることもあるでしょう。しかしまだ噛む力の弱い幼児にとっては、大人と同じ食材は、噛んだり、飲み込んだりが難しい場合もあるのです。その体験が積み重なると、子どもの『食べたくない』につながってしまいます」(隅さん)
その一つの例が「サラダ」だとか。
「野菜は子どもに食べさせたい食材ですが、サラダで使うレタスは、幼児にとっては噛みちぎりにくいものです。最近の保育園では、衛生管理の問題から加熱した野菜の提供となるため、生野菜を食べる練習は家庭で行うことになります。ところが保護者は、家族と同じ献立のひとつとしてサラダを出すため子どもにとっては食べにくいということもあるわけです」(隅さん)
他にも、同様な理由が原因で子どもがご飯を食べないケースとして、何気なく口にしてしまう大人のもぐもぐタイムや、子どもが騒いだり泣くたびにお菓子やジュースを与えていると、子どもはご飯の時間になってもおなかがすかないのでご飯を食べないことも。普段、子どもに食事や決まったおやつの回数以上にお菓子を与えすぎていないか見直してみることも大切です。
幼児期特有の好き嫌いをなくすために試してみたい方法
離乳食から幼児食になった途端に子どもがご飯を食べなくなったり、偏食傾向が分かってくると、親としては心配が募ります。
そんな時に、上に紹介したこと以外に考えられる原因と、食べられるようになるために試してみてほしい方法を隅さんに伺いました。
- 幼児は食べ方がきちんと理解できていない場合がある。例えば口の中に食べ物をため込む時は、飲み込み方が分かっていないので、大人がお手本を見せるようにする。
- 子どもが食べないメニューがあっても、食卓にはそれとなく出す。時には「ママと一緒に食べてみようか」と誘う。ただし、拒否されたら無理強いせずにあっさりと引き下がること。
- 幼児期は友達の影響で食べられるようになることもあるので、友達と一緒に食事をする機会をつくるようにする。
- ひと口でもご飯を食べられたら「良かったね!」と満面の笑みで褒める。
- 子ども自身が「食べてみようかな」と思える体験を多くさせる。例えば、地域の行事やお祭りに参加したり、芋掘りやいちご狩りといった食に関わる体験をさせるなど。
隅さんによると、幼児はちょっとしたきっかけで偏食や好き嫌いがなくなることも多いそうです。だからこそ、食事中はできるだけ子どもの様子を気に掛けて、見守る姿勢が大切なのだそうです。
【学童期】食べない理由は複雑! まず原因を探してみる
隅さんによると、学童期の子どもがご飯を食べない理由はかなり複雑だとのこと。
「小学生になると給食が始まります。給食のシステムは保護者にとってありがたく、栄養も一日の必要量の約3分の1は摂取できますが、実はこの給食がご飯を食べないきっかけになることもあります」(隅さん)
食べ方が身に付いていないから食べない(食べられない)ことも
特に低学年などで、正しい咀嚼(そしゃく)方法が身に付いていない子どもの場合、決められた時間内に給食を完食できないことも多々あるとか。「家庭の事情で幼児の頃から一人でご飯を食べる『個食』が多い状況で成長すると、きちんと嚙めない、飲み込めないまま学齢となってしまうことがあるのです」(隅さん)
また、学校や先生が子どもの食物アレルギーについて正確に理解し、把握した上で給食の指導をしていないと、子どもは「食べない」ではなく「食べられない」状態になってしまう可能性もあります。
子どもがご飯を食べないことには、最近の給食事情も関係している
新型コロナウイルスの感染拡大以来、給食でも「黙食」が推奨されることがあり、給食の目的の一つである「みんなで楽しく食べる」ことが難しくなっているそうです。隅さんは、これも子どもたちの食欲に関係しているとみています。
また、最近の給食では、最初から量を少なくして食べることが許されていることが多く、子どもに「食べない」という選択肢が与えられていることにも隅さんは注意が必要だといいます。
「好き嫌いやわがままで食べない子どもだけでなく、ダイエットのために給食を減らすという子どももいます。小学生でダイエット? と思うかもしれませんが、SNSなどで間違ったダイエット知識を得る子もいて、そういったことが『ご飯を食べない』につながっているのです」(隅さん)
子どもがご飯を食べない背景には、ヘルスリテラシーの欠如が
子どもが自分の意志で給食の食事量を減らすと、やはりおなかがすきます。そこで、放課後にスポーツドリンクや栄養飲料などを飲んだり、栄養補助食品などを食べすぎてしまうケースもあるそうです。その結果、夕飯が食べられないという悪循環に陥ることも。
こういった背景には、SNSなどでさまざまな情報が入り乱れて、いわゆる“ヘルスリテラシー”が欠如している状況があるといい、隅さんはそこに危機感を抱いているそうです。
「大前提として子ども自身が食について正しい知識を持ち、食べ物を選ぶ力をつける必要があります。そしてそれをできるようにするのは大人の役目です。学校教育はもちろん、家庭でも保護者が教えなければいけません。このまま放置すると、食べない、食べなくてもいいということがどんどん加速して、子どもの心身の健康に対して危機的状況になってしまってもおかしくありません」(隅さん)
学童期の子どもが、ご飯を食べない場合の対策は?
隅さんによると、学童期は子どもの自立が進むこともあり、食べない理由もさまざまなので、それに見合った対応を行う必要があるとのこと。
「『食べない』を『食べる』にシフトチェンジする方法は、ジャンルを問わずいろいろと試してみて、そこで引っ掛かったことを伸ばしていけばよいと考えています。幼児期と比べて、挽回できるチャンスはまだまだいくらでもありますから」(隅さん)
例えば、家庭科の調理実習が有効なこともあるのだとか。みんなで行う調理実習がきっかけで、子どもが料理好きになることは多いようです。また、田植え体験で「お米の成長がこんなに面白いなんて」と興味を持ち、そこからご飯が好きになるといったケースも。
さらに学童期は、大人との接し方の幅が広がる時期でもあります。「地域のイベントや、企業主催の料理教室などに参加して食に対する関心を高めるといったチャンスも積極的に利用するとよいでしょう。親子で食関連のアプリを使ってみるのもおすすめです」(隅さん)
学童期は子どもが大きく成長する時期なので、食に対する興味や食べる楽しさを知るのに適したタイミングであるともいえます。
食への正しい知識・考え方も深めていくことは学童期の「食べない」を「食べる」に変えるために役立つのです。
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おわりに
子どもがご飯を食べない原因や対処法について、管理栄養士の隅弘子さんに伺いました。
「普段から、子どもがご飯を食べている様子を見守る保護者の意識が大切です」と隅さん。隅さんの長年の経験によると、本当にご飯を食べていない子どもはなんとなく元気がなくて居心地悪そうな表情をしているそうです。身長や体重が明らかに増えていないというケースは受診を視野にいれる必要がありますが、そうではない場合は、子どもがご飯を食べないからといって心配しすぎる必要はないようです。
普段から子どもの食べ方をよく見て、食べない場合はその原因や解決法を探しながら見守っていく姿勢を大切にしていきたいですね。