イタリア・ミラノのあるキッチンツールの見本市に参加したときのこと。ディスプレイで気になったのが銅鍋でした。あるキッチンブランドでは伝統的な銅のレンジフード(換気扇)を、そのままクラフトモダンなキッチンに採用していました。
日本に正式デビューしたのがフランスの「モヴィエル」の銅鍋です。
このお鍋を日本に正式輸入することになったいきさつを伺ってみました。
輸入と卸を手がける会社のご担当者が、現存している「画家モネの自宅」を見学したそうです。美しい睡蓮のある庭を持つその家のキッチンには、当時使われていた「銅の片手鍋」がいくつも壁に掛けられていたそうです。
ご担当者が感銘したのは、使い込まれた銅の美しさ。
どこのブランドだろう。その特長は柄を鍋につなぐ部分にありました。
ぶたの鼻のような雲形のパーツはモヴィエルというブランド、特有のものだそうです。そこから探し当てて、日本に販売することになったそうです。
「モヴィエル」はフランスのノルマンディー州で1830年に創業。
酪農が盛んで、上質のバターやクリームが手に入る土地柄で、昔から料理人や製菓職人が買い付けにくる地域でした。そんなプロのお眼鏡にかなう道具を売ろうと創業したのが「モヴィエル」だったのです。
モヴィエルの鍋は沈没したタイタニック号の厨房から引き上げられたという逸話を持つほど、プロに愛用され、耐久性のある銅鍋です。
銅のお鍋は炎の力を繊細に伝え、砂糖やバターを溶かすのに最適。キャラメルを煮詰めるのに多用されました。
さらに果物をことこと煮ても、色がさめないという大きな利点があります。そこでコンポートやジャムなど、料理の色彩感覚も大切にするフランス人に愛されたのです。
特にベリーなどは赤が鮮やかに出るといいます。ノルマンディーはリンゴの産地でもあり(リンゴ酒のシードルが人気です)、それを煮るのにも多用されたのかもしれません。
ガスの超とろ火に銅鍋を掛けて、ゆっくりと砂糖を焦がしてキャラメルをつくる。想像しただけでも、甘い香りが漂ってきそうです。
キッチンで使う鍋としてのほか、人気があるのはテーブルウェアとしての鍋。ミニチュアの銅鍋で料理を温め、そのまま熱々のお料理を卓上で楽しむ。そんな楽しみ方も注目されています。
またモヴィエルの鍋はきれいな紙に包まれています。再生紙を使っていますが、できるだけ余分な梱包材を使いたくないという、企業哲学の現れだそうです。
使い込んで磨けば磨くほど、鈍い輝きを放つ。そんな銅鍋は一つ、手元においておきたくなりますね。