子どもの発達障害、判明するのはいつから?
子どもが発達障害だと診断されるケースが増えています。言語が遅い、コミュニケーションが成立しない、じっとしていられない、お友達とのトラブルが絶えない・・・など、発達障害が疑われることがあった時、親はどのように子どもをサポートすれば良いのでしょうか。小児外科医で作家の松永正訓先生に詳しくお話を伺いました。
ーーー子どもが発達障害だと判明するのはいつからでしょうか。
(松永先生)「発達障害とは、先天的に脳の神経回路がつながっていないために起こる不具合です。子どもの年齢が上がり、社会と接点を深めていく中で発覚していくことが多いでしょう。
自閉スペクトラム症(ASD)の場合、早ければ1歳半、大体、2歳〜3歳で気付くことが多いと思います。親子の間でコミュニケーションが成立しないと思ったら、その可能性があります。
学習障害(LD)は小学校生活の中で気付くことが多いでしょう。そのため、小学校入学の6歳前後以降に発覚する傾向にあります。
注意欠如多動性障害(ADHD)の場合は、大体3歳以降です。幼児期には気づかず、小学校に入って学校の環境になじめないことで気付くケースも多くあります」
発達が気になったら早い段階でかかりつけ医に相談すると良いと松永先生。かかりつけ医の支援を受けながら、必要に応じて療育を進めていくことになります。詳しくは次のパラグラフで詳述します。
発達障害の特性とは?
発達障害の特徴は以下の通りです。これら3つのどれか1つの特性を持つ場合もあれば、複数の特性を併せ持つ場合も多いそうです。また知的障害を伴うこともあります。
自閉症スペクトラム症(ASD)の特徴
- コミュニケーションがとれない
- 社会性がないこと
- こだわりが強いこと
注意欠如多動性障害(ADHD)の特徴
- 著しく不注意な行動や忘れ物が多い
- 衝動的な行動が多い
- 多動傾向がある(じっとできない)
学習障害(LD)の特徴(知能は正常)
- 読み書きができない
- 計算ができない
- 地図が読めない
子どもが発達障害かと思ったら、親はどう支援すれば良い?
ーーー「子どもが発達障害かな?」と疑った時、親はどう支援すれば良いのでしょうか。
(松永先生)「気付いた時に、まずはかかりつけ医に相談しましょう。診断は早い方が良いです。一歳半検診の段階で気になっていたら相談すると良いでしょう。一歳半の段階でも、言葉を使ったり仕草などの方法でコミュニケーションを取ろうとするものです。それがなければ、自閉症スペクトラム症(ASD)の疑いがあります」
発達障害の疑いがあると、親としてはすぐに専門医を受診したいと思いがちですが、松永先生によると日本に児童精神科医や発達障害を専門とする小児科医は大変数が少ないそう。予約を取ってから受診するまでに半年以上かかってしまうこともあると言います。
そのため、発達の遅れの深刻さに応じて、かかりつけ医や児童発達支援事業所とつながって支援していくのが良いとのこと。松永先生が勧める対応方針は以下の通りです。
発達障害の疑い度合いによって異なる、親の対応方法
少し発達が遅めの場合:家庭とかかりつけ医で支援していく
親子でたくさん遊び、声がけを増やしてコミュニケーションを多く取ります。子どもの様子をよく観察し、かかりつけ医に都度相談して必要な支援を受けます。
発達障害の疑いがあり、言葉の遅れがある場合:かかりつけ医に相談し、療育を受け始める
全国に約4,700カ所ある児童発達支援事業所では、お子さんの療育を行っています。療育でお子さんの自立をうながし、発達を伸ばしていきます。かかりつけ医で療育を受けられるよう意見書を書いてもらう必要があります。
明らかな発達障害の場合:かかりつけ医に紹介状をもらって専門医に相談
かかりつけ医に紹介状をもらって専門医に相談しつつ、児童発達支援事業所で療育を受けていきます。必要に応じて発達検査を受けることもあります。
かかりつけ医は予防接種や健診から始まり、その子の成長の過程をすべてみられる立場にあります。発達の相談窓口には最適だと松永先生。基本、まずはかかりつけ医に相談し、その上で必要な機関の支援を受けていくのが良いでしょう。
親がやった方が良いことや注意点
最後に、発達が気になる子の親がやった方が良いことや、注意した方が良い点について伺いました。
かかりつけ医に相談する
上述した通り、まずはかかりつけ医に相談するのが良いでしょう。その上で児童発達支援事業所や専門医など必要な機関とつながっていきます。
発達障害児の親の会に参加する
発達障害児の親は未来の見通しが立たずに不安になりがちです。親の会に参加することで、少し上の年齢の子のお母さんから話を聞いたり、仲間に相談でき、見通しが立ちやすくなります。
発達障害に関する本を読む
手軽に検索できるインターネットで情報を収集してしまいがちですが、怪しい情報や高額な発達障害ビジネスも多く注意が必要だと言います。まずは専門家が一般の人向けに書いた発達障害の本を1冊、読んでみることが良いのだそうです。1冊読むのはエネルギーを要しますが、正しい情報を網羅的に入手できることは大きな価値があることだと言います。松永先生の本では「発達障害 最初の一歩」が一般の人向けに優しく解説されています。
ペアレントトレーニングを受ける
多くの自治体などで親向けのペアレントトレーニングを行っています。こうしたトレーニングでは、子どもの行動を「好ましい行動」「好ましくない行動」「許しがたい行動」の3つに分けます。好ましい行動は褒め、好ましくない行動には無関心を装うなど、それぞれにどう対処するかを親同士で練習していきます。「褒めて育てる」と言われても、どう褒めて良いかわからない場合にも良いでしょう。
発達障害に関するQ&A
ーーー療育とは具体的にどのようなことをするのでしょうか。
(松永先生)発達を促し、自立に導いていく取り組みのことでさまざまな方法が用いられます。例えば、よく行われるABA(応用行動分析)では、主に3つの骨子があります。それは、褒めて伸ばすこと、手助けして成功体験を積ませること、問題行動が見られたら叱るのではなく無視してやり過ごすこと。多くのお子さんにこうした方法は効果がありますが、効果には個人差があり、重度の知的障害を伴う自閉症スペクトラム症(ASD)の場合など、厳しすぎる療育は子どもにとってストレスになってしまうこともあります。お子さんの様子をよく見ながら、うまく使ってほしいと思います。
ーーー近所のかかりつけ医が発達障害の相談にあまり乗ってくれない場合、どうすれば良いのでしょうか。
(松永先生)患者が急増する中で発達障害は注目が高まっていますが、その一方、新しい学問分野なので詳しくない小児科医も多いのが現実です。私自身も千葉市医師会で勉強会を行ってきましたが、医療側の課題かと思います。私のクリニックにも東京からわざわざ来られた患者さんがいましたが、やはり遠いと通院が負担になります。通える範囲のクリニックにいくつか相談に行ってみるのが良いかと思います。
ーーー発達障害の場合の薬との付き合い方について教えてください。
(松永先生)注意欠如多動性障害(ADHD)の場合、症状が強いと、日常生活がかなりしんどくなり、自尊心が低下するリスクがあります。そういう子の場合に、薬を使うこともあります。また自閉症スペクトラム症(ASD)の場合には、神経の高ぶりを抑える薬もあります。いずれにしても、効果や副作用には個人差が大きいため、薬を使う場合には、週に1回など定期的に通院して、様子を見ながら薬の種類や量を変えていきます。ただ、薬で発達障害が治るわけではありません。
おわりに
松永先生によると、発達障害を疑って受診に来るお子さんは多く、小児科医としては「日常疾患」のように頻繁に目にするそう。「伸びしろのない子はいません」と松永先生。早めに診断し、親や周囲が積極的に関わっていくことで、多くのお子さんが成長する過程を目にしてきたと言います。気になったら早めにお近くのかかりつけ医に相談してみると良いですね。